★☆エースの腹は底ナシ☆★
Yは高校2年生。全国でも名の知れた私立野球強豪校のエースであり、
四番打者としてチームを引っ張る存在だ。
誰もが憧れるスター選手だが、その裏には壮絶な努力と、普通の高校生とはかけ離れた日々がある。
この日も早朝から朝練に始まり、昼間は授業、放課後は夕方練習、そして夜には夜練。
朝練の前に大きなおにぎりを2つ平らげたにもかかわらず、
夜練が終わる頃にはすでに限界を迎えていた。
夜のグラウンドから駐車場へ向かうYの足取りは重い。
迎えに来た車に乗り込むと、シートに体を沈めるやいなや、深い溜息をついた。
そして、次の瞬間、まるで魂の叫びのようにこう言った。
「腹減ったぁ~!なんか食うもんナイの?」
運転席にいた母親は、少し呆れたように振り返る。
「朝、おにぎり2個食べたでしょ。夜練の前もお弁当食べたじゃないの。どんだけ食べるのよぉ~」
しかし、Yは聞く耳を持たない。
目は完全に「食べ物スイッチ」が入っており、もはや野生動物のような目つきだ。
「なんかないの?今すぐ食べられるやつ!」
母親はため息をつきながら、ふと助手席の足元に目をやった。
そこには買い物帰りの袋が置いてある。中には、たまたま特売で買ったバナナがひと房。
「バナナならあるわよ」そう言って、母親は袋からバナナを取り出し、Yに差し出した。
その瞬間、Yの目が輝いた。まるでホームランを打った時のようなキラキラした目だ。
「マジで!?バナナ最高!」
Yはバナナを受け取ると、まるでそれが試合の決勝点を決める一打であるかのように、
全神経を集中させた。そして、1本目を手に取るやいなや、
「1、2で剥いて、3で口!」「1、2で剥いて、3で口!」
という勢いでバナナを口に押し込んだ。
母親はそのスピードに驚きつつ、次のバナナを差し出す。
Yはそれを受け取ると、またもや1・2で皮を剥き、3で口に入れる。
「ちょっと待って、そんなに急いで食べなくても」
母親の声も届かない。彼の中の「空腹モンスター」が完全に暴走していた。
その後も、Yはバナナを次々と平らげていく。1本、2本、3本、4本・・・
母親が目を丸くしている間に、ひと房10本のバナナが、まるで魔法のように消えていった。
最後の1本を食べ終えたYは、満足げにお腹をポンと叩き、こう言った。
「ふぅ、やっぱバナナって最強だわ。もうちょっとで死ぬとこだった。」
母親は足元に転がるバナナの皮を見つめながら、呆然とした表情でつぶやいた。
「バナナ10本って、数秒で食べられるものなの?」
その夜、家に帰ると、母親は家族にこの話をした。
家族はみな驚き、そして大笑いした。兄は「エースの腹は底なしだな」と感心し、
弟は「バナナの皮で滑らないように気をつけてよ」と茶化した。
しかし、Yはそんなことにはお構いなし。
すでに風呂に入ってさっぱりした彼は、リビングでこう叫んだ。
「腹減った!晩ご飯まだ!?」